人間にとって、森林という存在は、無くてはならないものです。
私たちは、知らずしらずのうちに、本能的に森林とのふれあいを求めています。
最近、自然とふれあっていない方は、もしかして、ストレスを溜めていませんか?
ストレス解消のきっかけが、「森林とのふれあい」かもしれません。
そこで、今回の記事では、癒しの空間である「森林浴」について、次のポイントでまとめています。
- 森林の働き・森林の機能とは?
- 森林浴の効果、最適な頻度・場所
日常生活で森林と触れあう機会がない方、森林に興味がある方、ぜひ、読んでみてください。
本記事では、「森林浴(癒やしの空間)」のうち、森林そのものについて、機能や働きは何か?を紹介します。
- 日本は、世界の先進国の中で、トップクラスの森林大国である。
- 森林の働きは、地球環境保全、保健・レクリエーションなど、主に8つの機能がある。
- 人間には、自然とのつながりを求める本能的欲求がある。
- 日本人は、自然への畏敬を感じるなど、独特な自然観を持っている。
森とは?林とは? ~森林浴「森林の働き」~
「森」
「林」
皆さんは、「森」と「林」の違いって知っていますか?
木の数が多い少ない。面積が大きい小さい。で区分されると思っていませんか?
「森」と「林」の違いは、明確な定義はありませんが、一般的に広く知られている定義を紹介します。
「森」は、「盛り」とも表現でき、「多種多様な木々が集まり、盛り上がった環境」を指しています。
一方、「林」は、「生やし」から派生した言葉で、「人工的に残された同種の木が一様に集まってできた環境」と言われています。
その他、人工的に残された環境以外でも、「樹種や樹齢、樹高など同じような樹木が集まってできた環境」とも言われています。
「森」と「林」の違いは、木の数が多い少ない。面積が大きい小さい。ではなく、多様な樹木が集まったか、一様な樹木が集まったかによって、決まるということです。
日本の森林環境 ~森林浴「森林の働き」~
日本の森林面積は、どのくらいあるのでしょうか?
日本は、世界の先進国の中で、トップクラスの森林大国であり、フィンランド、スウェーデンに次いで3番目となっています。
そして、国土面積に占める森林面積の割合(森林率)は、68.5%で、約2,500万ヘクタールあります。
これは、本州の面積2,300万ヘクタールに、四国の面積190万ヘクタールを加えた面積に匹敵します。
また、日本の森林環境は、さまざまな樹木が生育しているという特徴もあります。
日本列島は、南北に2,500km以上伸び、また、標高3,000m以上の山岳部を有しているため、多様な自然環境が存在しています。
また、気候においても、北海道の亜寒帯気候から沖縄の亜熱帯気候まで、さまざまな気候区分が存在し、北海道や高山部では亜寒帯林(エゾマツ、トドマツなど)、北日本や山地部では冷温帯林(ブナ、ケヤキなど)、西日本や低地部では暖温帯林(カシ、クスノキなど)が、主に生育しています。
そのため、日本の森林は、1,000種以上の樹種が生育しており、独特な環境を有しています。
※参考文献:林野庁HP「再確認!日本の森林」
森林の種類 ~森林浴「森林の働き」~
『天然林』
『天然林』は、①原生林、②天然生林、③二次林を総称した森林のことです。
- 原生林
今まで人の手が加わったことがない森林。原始林。処女林。
ほとんど残されていないのが現状で、日本では、屋久島、小笠原諸島、白神山地、知床などが原生林で、4箇所については、世界自然遺産に登録されています。 - 天然生林
過去に人の手が加わったが、その後、自然の力によって、自然の状態に戻った森林 - 二次林
天然生林のうち、比較的樹齢が若い森林
天然林の「日本三大美林」は、青森県の「青森ヒバ」、秋田県の「秋田スギ」、長野県の「木曽ヒノキ」と言われています。
『人工林』
『人工林』は、おもに木材利用のために、人の手によって造られた森林で、「育成林」とも言われます。
一般的に、植栽後30~50年を経過して、収穫される森林です。
人工の「日本三大美林」は、奈良県の「吉野スギ」、静岡県の「天竜スギ」、三重県の「尾鷲ヒノキ」と言われています。
森林の機能 ~森林浴「森林の働き」~
ここでは、森林がどのような働き、機能を果たしているのか、解説します。
森林は、多面的な働き・機能を有しており、国の林野庁では、下図のように8つの働きがあると示しています。
図の中の貨幣評価額は、各機能の1年あたりの金銭的な価値を試算したもので、あくまで参考です。
図-森林の有する多面的働きの貨幣評価
『地球環境保全』
皆さんご存知の通り、近年、地球温暖化が全世界の喫緊の課題となっています。
これを対決する方法として、植林活動があります。
森林面積を増やすことで、二酸化炭素の吸収を促進し、地球温暖化を抑制することができます。
人類、さらに言えば生物全体にとって、地球環境保全は、最も重要かつ不可欠な働きです。
『土砂災害防止・土壌保全』
山に、森林が育つことで、樹木の根とともに土砂や岩、石が一体的に固定され、土砂災害を防ぐことができます。
また、山の地表では、樹木からの落葉や落枝があったり、苔が自生したりしています。
これらに覆われることで、雨による土壌の侵食や流出を防ぐこともできます。
『水源涵養(かんよう)』
森林に雨が降れば、その雨水は地中に浸透し、時間をかけながら、少しずつ河川に流れ出ていきます。
この涵養(かんよう)活動により、洪水が防止され、また水が浄化されています。
この働きと、先ほどの土砂災害防止・土壌保全の働きがあるがゆえに、森林は「緑のダム」と言われています。
『快適環境形成』
森林には、快適な環境を形成するための気温・湿度の調整ができます。
森の中は、夏はひんやり涼しく、冬は温かい環境です。
これは周囲の木々が、直射日光や風を遮り、森の中が外気の影響を受けにくいからです。
そのため、森の中は、最高気温が低く、最低気温が高いと言われています。
『保健・レクリエーション』
本記事のテーマでもあります療養、保養の機能です。
森林は、憩(憩い)の場として、親しまれています。
森林浴によって、心身のリフレッシュや、免疫力向上が図れ、健康を保つことができます。
森林浴の驚くべき効果については、「森林浴」をご覧ください。
『文化』
森林の文化機能としては、景観や歴史があります。
まず、景観について、日本では四季ごとに、森林の様相が変わり、一年通してたくさんの風光明媚な景観を楽しむことができます。
例えば、春であれば「花見」、秋であれば「紅葉」などです。
次に、歴史においては、
森林大国である日本は、昔から、森林と密接な関係を持ちながら、繁栄してきました。
八百万の神を崇める日本の神道は、森の宗教とも言われており、森は日本人にとって無くてはならない存在です。
『物質生産』
森林の木材を利用し、私たちが住む「家」や日常で使用する「家具」などの林産物が作られています。
また、日本に古くからある伝統工芸品も、木材を使用しており、森林を欠かすことができません。
『生物多様性保全』
森林には、多種多様な生き物が生息しており、陸上全体の約8~9割の生き物が存在しています。
その数なんと、160万種。
その他の約1~2割が草原などで生息していると言われています。
言い換えれば、森林面積が減れば減るほど、絶滅する生き物が増えるということです。
※参考文献:林野庁HP「再確認!日本の森林」
自然と人間の関わり ~森林浴「森林の働き」~
「自然」=「人間の本能的欲求」!
現代の暮らしは、自然とふれあう機会が少なく、人工的な都市文明の中で生活していますが、人類誕生から700万年の長い歴史のうち、99.99%の期間は、自然環境の中で生活してきました。
現代では当たり前の都市環境での生活は、300年前の産業革命以降のことで、人類の歴史の中のほんの、0.01%にも満たない期間となっています。
人間と自然との繋がりについて、九州芸術工科大学教授で生理人類学者の佐藤方彦は、次のように述べています。
人間の歴史の中で都市が出現したのは、ごく最近のことで、人類は森の中で生まれた。
出典:生理人類学者 佐藤方彦
霊長類の仲間として森に住み始めたのは、それより前のことである。
さらに、猿人・原人・旧人・新人と続く進化の過程を通して、おそらく森は人間の体質に深く刻み込まれてきたはずである。
また、ハーバード大学教授で生物学者のエドワード・オズボーン・ウィルソンは、1984年に「バイオフィリア」という「自然(バイオ)への愛着(フィリア)」を提唱し、「人間には、自然とのつながりを求める本能的欲求がある」と、述べています。
このように、都市環境・人工環境で生きている私たち現代人は、人類の長い歴史の中で獲得した自然との関わり、自然環境への親しみを本能的に求めています。自然は人間の原点です。
逆に言うと、現代人の暮らしは、本能的に居心地が悪く、慢性的なストレス状態となっているということでもあります。
私たちが健康や幸せを得るには、自然と触れ合うこと。つまり森林浴が必要なのです。
日本人とっての森林とは?
日本人にとって森林とは何か。どんな関係にあるのでしょうか。
まず、日本の宗教基盤は、古来から自然信仰のもと八百万の神を崇める「神道」、そして西暦538年に伝来した「仏教」で成り立っています。
このうち「神道」は、自然豊かな日本特有のもので、自然の脅威や自然への畏敬を感じ、人間の力だけでは生きることが難しく、自然と上手く共存しなければならないという考えから生まれたものです。
このため、日本人には、花鳥風月に代表されるように自然の美しさを感じる心や、鎮守の森に代表されるように神を敬う心など、独特な自然観があります。
神道を扱う「日本書紀(最も古い日本の歴史書)」の中には、神様である須佐之男命(スサノオノミコト)の「髭(ひげ)」が「杉」に、「胸」の毛が「檜」に、「尻」の毛が「槙」に、「眉」の毛が「楠」になったと伝えられ、木は、神が宿したものと考えられています。
以上のように、森林という自然は、日本人と深く結びつき、切っても切れない存在なのです。
自然に還る有名企業(GoogleやAmazon)
ここでは、自然と人間との関わりについての最新の動向について紹介します。
先ほど、「バイオフィリア」について紹介しましたが、この言葉から派生して「バイオフィリック・デザイン」という言葉ができました。
バイオフィリック・デザインとは、「バイオフィリア」(自然とのつながりを求める人間の本能的欲求)を満たすために、建築やインテリアに自然を取り入れ、自然とのふれあいを再構築するデザインのことです。
このデザインは、皆さんご存知、GoogleやAmazonのオフィスでも導入されており、人にとって非常に有益性があることが分かっています。
米国ランカスター大学組織心理学・健康教授でケイリー・クーパー博士が、世界16か国のオフィス労働者を対象に調査した報告書を紹介します。
※ 出典:「世界中の職場における、バイオフィリックデザインが与える影響」調査報告書
植物や自然光など自然の要素を取り入れたオフィス環境 では、
- 幸福度が、最大で15%上昇します。
- 生産性が、3ヶ月で6%上昇します。
- 創造性(インスピレーション)が、15%上昇します。
※いずれも自然の要素を取り入れていない場合との比較値
また、この報告書には、
「自然光が最も重要である。」
「緑の草木、水辺、動物の景観が効果的である。」
「緑、青、茶色のアクセントカラーを取り入れたオフィスの色彩設計が効果的である。」
という結果も示されています。
【Amazonのオフィスの外観】